「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」を使いましょう

一 日本初の女性総合福祉法である「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」が本年4月1日に施行されます。この法律は皆さんにとって耳新しい法律ですが、暮らしがますます厳しくなり、特に女性たちにとって「助けて」と言える社会の必要性を考えると、沢山の人達に知っていただきたいて使っていきましょう。

二 この法律は、従来の売春防止法(1956年成立)の中に「女性の保護更生の部分」を新しい法律に移行させて充実させようとするものです。売春防止法上の女性の保護とは「婦人相談所」・「婦人相談員」・「婦人保護施設」の機関を指し、これらは67年間に亘って実績を持っています。この制度は困難を抱えた女性が行政に相談をし、婦人相談員が女性の困難を一緒に考え、生活施設に一時保護する制度を使ったり、一定期間婦人保護施設という生活施設で自立の準備をし、自立への道を進むコースを設定します。この利用料は無料です。福祉施設は一定の利用料を徴収するのと対比すると非常に有効な制度です。

三 しかし、一般には知られていません。弁護士である私も、今から42年前1981年近畿弁護士会連合会の企画で、大阪府立婦人保護施設生野学園に出会うまで知りませんでした。実は企画の「金なし、職無し、住まい無しの女性が無料で駆け込めるところはあるか?」のテーマにぴったりの場所があったのです。ところで、こんな女性のとって有用なところをもっと利用しようと弁護士会で確認した矢先に大阪府が廃止決定を出し、反対運動が始まり、私も参加しました。私がこの新しい法律の実行に力を込めているのは、こんないきさつがあります。

四 新しい法律はこの実績の上に立っているので、国や自治体がDV・貧困・暴力(夫の暴力)・性の売買などで住む場所を無くした全ての女性を保護します。

新しい法律は長年に亘って婦人保護の事業をしてきた人達の願いが結実したもので、2022年5月に国会で全会一致で成立しました。民間の願いを盛り込んで、スタートさせるべく大阪府は3月中にパブリックコメントを取ることとしています。皆の法律の誕生です。

五 売春防止法上の婦人保護事業に実績があるなら、どうして別法を作る必要があったのか、皆さんは疑問を持たれるでしょう。

端的に言えば、売春防止法は売春女性は「更生」の対象であり女性の人権の視点がないということが理由でした。現に私の依頼者の方で、あんな管理的なところには絶対に行かないと言った女性もいました。これには歴史的な理由があります。性の売買は法制上戦前は国が管理する公娼制度をとっていました。戦後の民主化の中で性の売買を違法とすることは、社会的に勢力のある売春業者のすさまじい抵抗にあいました。売春女性を「矯正更生する」という名目を持つことで、社会的認知を得てやっと立法化した経過があったからだと思われます。女性の人権を問題に出来る政治的力関係はなかったのです。

六 一方では女性の人権の視点に立つ女性福祉法への転換に際して、売春問題をひっくるめて、法の対象であることは必ずしも明確でなかった時期がありました。売春防止法から女性の保護をすっぽり抜く際に、性の売買についても置き去りになりそうな時期がありました。しかし、これも多数の意見が出されて、冒頭に述べた通り、性の売買についても対象とすることが明確になっています。

七 しかし、性を売る女性に対する社会の偏見は新法が出来たことで払拭できるでしょうか。結論から言えば、本質的な解決はしていません。なぜなら、売春防止法は「第五条公衆の面前で売春の勧誘をする女性は処罰の対象」の規定は廃止になっていません。性の売買で儲ける事業者の売春防止法処罰規定は殆ど発効されず、性を買う男性は不処罰で、性を売る女性の一部(五条売春)は犯罪という日本の売春防止法の仕組みは旧態依然としているからです。スウェーデンなど北欧モデルの国は女性は保護の対象であり、処罰はしません。我が国の法制は性の売買にまで追いやられる女性がいることは皆が認めているのに、保護の対象にしない処罰の規定を廃止しようとしていません。

最近、若い女性の性を売る行為(ホストに貢いでホストに売春に追いやられる)が新聞紙上で騒がれ、若い女性たちは何十人と現行犯逮捕されています。決して先に紹介した婦人保護のケースに乗せないのです。

性の売買問題については風俗営業法(1948年成立)で性の売買を容認していること(例えば個室付き浴場、個室の浴場で異性の客に接触する役務を提供する営業いわゆるソープランド)からも分かるように、我が国で売春は容認されているとの社会常識がどっかりと居座っています。女性処罰規定の五条売春の廃止を含めて、この問題についても、まともに議論することが求められています。

八 新法が女性の人権を明記したことを実効あらしめるためには、売春防止法下での「従来の問題のある実績」の改善が必要です。

(1)婦人相談員(=女性相談支援員)
今日、この法律を実効性あらしめるために必要なのは、婦人相談員(→新法で名称変更により女性相談支援員)の増員と待遇改善です。婦人相談員の殆どが非正規雇用で、賃金を含め労働条件が低く、860万府民の大阪府の婦人相談員はたった15名でしかも全員が非正規です。熟練を要する専門性の高い仕事です。困難を抱える女性たちが寄り添って問題を解決する最初に出会うサポーターです。本来、10年以上も働いて賃上げ無しの会計年度職員であってはなりません。女性をサポートする女性がダブルワークをしなければならない程の劣悪な条件で働くことは論外です。これがまかり通るのは、女性の施策には金を出さない従来の行政の典型と言わなければなりません。
しかも、女性相談支援員は府には必置義務がありますが、市にはありません。ですから大都市の大阪市は現在女性相談員はゼロです。新法の施行に当たっては大阪市および府下の市町村に女性相談支援員を増員する必要があります。

(2)婦人保護施設も大阪府としても法律上設置義務がないので、先に三で紹介した生野学園を廃止する時に、他の婦人保護施設を廃止し、堺市の光明池1カ所にしました。

(3)今春の市町村の予算議会で女性相談支援員の新設・待遇改善がなされるべきです。実効ある施策をするには財源保障が何よりも必要です。

大阪府も私たちの会と面接した際に女性相談支援員の増員と待遇改善の必要性を認めました。2月12日と13日のNHKEテレのハートネットのテレビ番組では女性新法の紹介と堺市の女性相談支援員の活躍と問題点が紹介されました。新しいこの動きが社会の注目を集めていることは、この法律施行の前途が明るいことを示しています。

九 新しい女性支援法を使いましょう。
弁護士の相談にお出でになる方で、DVで子どもを連れて夫から逃げてきた方、その他の事情で「金なし、職無し、住まい無し」の方がおられます。
女性のこの保護は「短期間の一時的な保護」と「一定期間の保護」の施設利用により、次の人生をどうするか考える時間も与えてくれます。
弁護士は困難な問題を抱えた方々の法律的なアドバイスだけでなく、その制度利用がスムーズになるようお手伝いします。公の制度の運用改善と法律改正も弁護士の仕事です。