「虎に翼」に共感する声に奮起する

NHK朝の連続テレビ小説「虎に翼」が視聴率第1位だと朝日新聞TVランキング(5月10日付)が報じている。この番組は私たち女性法曹の大先輩、この世界の先陣を切られた三淵嘉子さんをモデルにしている。三淵さんは1914年(大正3年)生まれで、1938年(昭和13年)司法試験に合格し、弁護士になり、男女平等を謳った日本国憲法制定により裁判官への道が開かれ、裁判官になり、1984年(昭和59年)裁判官定年退職後69才で亡くなられている。私は1975年(昭和50年)弁護士になったので、三淵さんのご活躍を知るべきであったが、その頃は既に女性裁判官と女性弁護士とが交流することがなくなっており、お名前は知っていたが、その人となりに触れたことはなかった。

今、新聞や雑誌の投稿欄のあちこちで「虎に翼」が取り上げられ、100年近くになっても男女差別が無くなっていないことの憂いが語られたり、彼女たちの闘いの線上に私たちの人生が繰り広げられているのであるから、頑張ろうとの声が聞かれて、私も久々に自分の人生が沢山の女性の思いと連なっていることに思いを巡らせている。

ついては、今、国会で戦後77年目にして家族法の大改正の法案が審議されている。いわゆる「離婚後の父母いずれかの単独親権」から「離婚後の共同親権」への改定問題である。

ところで、三淵さんは戦後司法省民事局司法調査室に勤められたという。この部署はGHQと一緒に民法改正法案を審議していたところなので、「離婚後は父母いずれかの単独親権」(民法819条1項・2項)の制定に参画されたのかもしれない。GHQといえば日本国憲法の人権条項、特に男女の平等規定第24条の生みの親であるベアテ・シロタ・ゴードンさん(1923年生まれ、2012年89才で死亡)と一緒に、「離婚後は父母いずれかの単独親権」の各条項を作られたのかもしれない。ベアテさんは若き日に戦前の日本で暮らし、三淵嘉子さんが味わった日本の空気をよく知っておられた。

私は、ベアテさんが日本の国会参議院の憲法調査会に参考人として呼ばれ「私は、日本の女性は賢いです。日本の女性は良く働き、心と精神は強いです。私は、議員の皆さんに一つだけお願いがあります。日本の女性の声を聞いて下さい。」(2000年5月2日)と発言されたことをいつも心の糧としてきた。

「離婚後の単独親権」制度の下で、経済的困難(養育料が支払われない・女性の賃金は男性の半分)な中で、年間約20万件弱の離婚ケースの9割が女性の単独親権の下で母子が生きている現実を根本からひっくり返すもので、彼女たちが望んでない制度は強行することは許されない。

国会審議の参考人供述をされたDV被害者で今は「シェルター」の運営に携わっている山崎菊乃さんの供述「離婚を逡巡していたが夫に殺されそうになって命からがら離婚した。共同親権制度が導入されたらこれが続くことになり、私たちは命の危険を感じる」(※統計では年間夫に殺される妻は100人を超える)。

政府は共同親権制度導入に当たっては、この危険を解消できる具体的な方策を示さなければ立法提案とはならない。

政府はこの声を無視するか事態を軽く見ているとしか言いようがない。

今、国会で議論され、「離婚後の共同親権」に実に22万人(多くは女性)のネット署名で「反対」の意思を表示しているという。にもかかわらず、数にまかせての今国会での強行採決を目の前にして、世の不条理に心を残して亡くなられた多くの先輩、今変革を求める同輩と心を一つにすべく、「弁護士生活卒業」と言う職責放棄はしないと心に決めている。